=海にも春の兆し=

 

みなさんこんにちは。平素は鳥の巣釣り場をご利用いただき有難うございます。

数年ぶりに寒いと体感した冬でした。北海道の知人は「はんぱない雪、60年以上の記憶の中で最大の積雪量!」と報せてきました。ただどうしてか、この周辺りのため池が凍り付くまでに至っておりません。これには強い北風が結氷を妨げた可能性が疑われます。

月の替わりを目前に気温が急上昇し、梅畑では淡いピンクの雲海が微風に揺れ、下草に緑の新芽が散見されるようになってきました。穏やかな日の海岸近くには採藻の小舟が浮かび、潮のひいた岩場には採貝の人影がうごめいています。

2月に居座った寒波の影響で釣り場の水温は15℃以下で経過してきました。気温の上昇と共に反転上昇し、直近は15℃を越えています。強い風で攪拌された海水が海底の泥を巻き上げ濁りが入っていた湾内も風が落ち着けば澄み渡った海が戻り、海中景観からも春の訪れが実感されます。でも風の強い湾央以遠は濁っているのだとか。

  釣はずっと低調な状態が続いておりましたが、月末の気温の上昇に伴って魚も忙しくなってきた印象です。チヌ類は月末にY名人の爆釣があり、月平均として1.5尾(1人当たり)となりました。その中には50㎝の大物も混じっていました。筏上からチヌ類の魚影が確認できるということから「釣りシーズンの扉が開いた」と言えそうです。残念ながらアジ類は引き続き極めて不調です。

  最盛期を迎えた“ヒロメ”漁

  写真のヒロメは我が国の暖海域に局地的に生息するワカメに近縁の海藻です。ワカメより葉っぱ(葉体部)の幅が広く、枝分かれしない等の特徴があります。田辺地方では“ヒトハメ”ともいうようですが、枝分かれしない形態に因んだ呼び名と推察されます。但し私は聞いたことがなく、年寄り連中がもっぱら口にする“メ”に親しんできました。

穏やかな海にヒロメ採りの小舟が浮かび始めれば春の訪れを実感するのです。そして年配者は「どうしても季節の恵みを味わいたい」と願うのです。そうした中、旧知の方から初物を頂戴しポン酢で食したそれは、葉っぱが柔らかく舌の上で溶ける食感がありました。味に嫌味が無く実にさっぱりしており、シャブシャブが最高と云う人も多いのです。季節が進めば葉っぱが固くなってきますが、それはそれで味わい方があります。

冬はアサクサノリ養殖の収穫期でもあります。ノリ養殖は水産業の中で重要な位置を占めておりますが、今日のように飛躍的に発展したのは70年程前にキャサリン・ドリユーという海藻研究者が“アマノリ類が成長段階の一時期に糸状体として生活する”という発見に拠ります。

彼女は養殖業への貢献を目指して研究したわけではなく、アマノリ類の生活史を明らかにするという純粋に生物学的探究心からでありました。彼女にとって想定外であったとしても、結果として遠く東洋の島国に予想外の恩恵をもたらしたのです(この発見をノリ養殖に取り入れた我が先人もさすがと言えます)。

昨今、見通しの明確でない研究は資金的支援を受けにくいという現実があります。予算申請を行う際には「この研究から期待できる成果は何か?」と必ず問われます。何が大化けするのか見通せない場合もあるのに。言い方を変えれば、成果が見通せるような視程の短い研究は社会を転換させるブレークスルーとはなり難く、その賞味期間も短い傾向にあると言えます。

その昔、生態学の世界では「ある生物種が繁栄しているのは“環境適応度が高い“からであり、そういう方向に進化した結果である」といった説が流布しました。しかし、特定の環境条件に極度に適応しすぎた生物は何らかの要因で環境が激変したら生存が脅かされることになります。恐竜が繁栄していた中生代に終止符をうったのは隕石衝突に伴う気候変動です。大繁栄していた恐竜に取って替ったのがほ乳類ですが、彼らは恐竜達に怯えながらひっそりと暮らしていたとりとめのない小動物でした。隕石の衝突や火山の大噴火のようなカタストロフィーを生き延びるのは強運と生存能力の高い(?しぶとい)生物群です。

もちろん研究資源は無限でないから予算配分にメリハリは必要であります。それでもなお、コストパフォーマンスといった短視程の損得に呪縛されすぎず、突拍子もない、或いは実現性が薄いと想われるような研究にも一定の割合で保険を掛けておく度量がないと将来の実りも期待薄です。紙幅もあり皮相な走り書きですが、ノーベル賞受賞者の多くは「興味の赴くところに従って粘り強く研究した」と述べています。