=バイ・バイ・バイの季節=

 みなさんこんにちは。平素は鳥の巣釣り場をご利用いただき有難うございます。

 ちょっと前までミカンの花が良い香りを漂わせていました。一雨ごとに新緑が深まっていきます。田辺近隣は今が加工用梅の収穫最盛期、夜明けと共に前線の梅畑へ急ぐ人の姿もこの季節ならではの光景です。

  釣り場の水温は5月半ばよりコンスタントに20℃を超えてきました。季節外れの暑さや前線の通過に伴う降雨によって短期的に乱高下したとは言え長期的には上昇傾向にあり、平年並みであればこの先ひと月ぐらいは23~24℃前後で推移するものと推察されます。

 5月のチヌ類の釣果は0.75尾(一人当たり)でした。月の前半は大型混じりとはいえやや低調気味であった一方、下旬に入ってから20~30㎝台の小型サイズ主体に替わり、爆釣御礼と言える日さえありました。チヌは春先から好調を維持しており、5月も昨年や一昨年に比べれば上々の釣果といえます。

 現在、良型のアジ類に加えて”ツバス(=ブリ幼魚)”も十数匹単位で釣れており、さらにアイゴも増加傾向です。ベテランのアイゴハンターから、「季節やない、腕のお蔭やで!」という声が上がるかもしれませんが・・・??

  英語の“Bye(バイ又はバーイ)”は別れを意味する言葉です。そう言えば,欧米は卒業式シーズンですね。別れの言葉はいろいろあり状況に応じて微妙に使い分けていますが、中でも“Bye”は使い勝手がよく今や世界語の地位を得ています。さて、田辺地方で “バイ”と言えば巻貝の一種を思い浮かべます。“ツメバイ”とも言いますが、周りでは前者が圧倒的。古来、世界各地で貨幣や装飾品として用いられた“タカラガイ”類にちょっと似ています。蛇足ですが、お金に係わる漢字に“貝“の字が含まれている字源が理解できます。また、”イモガイ“類にも似ていますが、こちらは毒を持つので注意が必要です。我々が”バイ“と呼ぶ巻貝の標準和名は”マガキガイ“となっています。うかつにも私は”ツメバイ“が標準和名と誤認しておりました。ポリポリです、真に!

 “バイ”は水温が上昇する晩春から初夏にかけて深所から浅海の砂泥底に移動し、産卵します。小舟を巧みに操り、箱眼鏡を覗きつつ先端に小さなタモ網を付けた長竿で海底に散らばる5㎝前後の巻貝を掬い上げるのがこの辺りの伝統的“バイ”漁です。優雅に見えても風の音を聴き分け波を感じる五感と小舟を狙いの位置に運ぶ技が必須です。もちろん船酔いなどは論外。操船を誤れば船を暗礁に船を乗り上げて事故の危険さえあります。湾内で行っているウニ採りも似たような作業ですね。

 地元では“バイ”を塩ゆでや酢味噌等で食すのがスタンダードです。その適度にコリコリした食感と嫌味のない味は、緑の山々と湾内の蒼い水面に浮かぶ小舟が織りなす景色と相まって、地域の初夏を感じさせる便りです。

 

 季節を運ぶ“バイ”貝

 “バイ”の詳しい生活史や生態は不明ですが、和歌山県の水産機関で“バイ”に標識をつけて放流したところ翌年も同じような場所で採集されたそうです。多くの水生生物同様に毎年同じ場所に戻る習性があるのかもしれません。田辺湾では漁獲量の年変動が大きいと言われます。県の専門家は地域資源を持続的に有効利用するためには踏み込んだ資源保護策を講じる必要を感じているようですが、利害調整が難しい上、漁業者を納得させる科学的な裏付けが要る等々、難しい問題が随いてきます。今のところ当漁協管内では潜水による“バイ”採りはご法度となっており、これは“漁獲努力量削減”策と言えます。また、漁業者の引退を見越した深淵な努力量削減策が採られているとの穿った見方もできますが、こちらは漁業技術の途絶と紙一重です。