=ままならぬとは言え 自然の恵み=

  みなさんこんにちは。平素は鳥の巣釣り場をご利用いただき有難うございます。

紀南の里山は所々に赤や黄色の木々が彩を添え、初冬の様相を醸し出してきました。釣り場の水温は16~17℃で推移し、カキの身入りが進むとされる15℃に近づきつつあります。

11月のチヌ類の釣果は30㎝以下の小型魚主体に2尾(一人当たり)でした。但し、爆釣と言える日も珍しくはなく、また、「手のひらサイズはプロの名折れ」とばかりに申告されない事例も多いため、チヌハンターには平均値以上のお忙し感があったと推察します。アジ類に一時の爆釣は見られなくなったものの、20㎝前後の小さな群れが周辺を回遊しており、時に30㎝前後の大型サイズ+同クラスのサバが混じってくるようです。ところがある日のサビキ釣りの達人Tさん、「生命反応を捉えられない、次回こそ・・!!」と早々に引き上げ、自宅へと戻っていきました。かようにアジ類の釣果は大きく振れる傾向がみられ、今後はどの程度定在するかによって釣り場の活況が変わりそうです。チヌ類は現在主体となっている小型サイズから大型サイズに替っていくと予想されます。

  釣り場はマガキの収穫作業は終盤に差し掛かってきました。どうやら2019年は豊作であった昨年、一昨年に遠く及ばない見込みです。田辺湾のマガキ養殖には少なくとも高い二つの障壁が考えられます。一つは水温の問題で、一般にマガキの適水温は15~25℃とされています。この養殖場では夏場に30℃に迫り、このラインを超えることも普通にみられます。このような高水温はマガキの生理活性に大きく影響し、時に致死要因となります。その一方で冬季の暖かい海水温がある程度マガキの成長を促しているのも事実で、これは広島や宮城など他の養殖産地に見られない特徴ではないでしようか。

もう一つは餌の量である。詳しいデータは持ち合わせていないが、透明度が高く栄養の少ない黒潮系の外海水が侵入する養殖場のベースの餌料環境はマガキ養殖に最適とは言えない。

マガキの収穫が終わったあとの筏

聴くところ、「台風が襲来した年はマガキが豊作」と言われているらしい。どういうことであろうか? 台風による海水の攪拌は水温を下げる効果がある、と共に底に沈んだ栄養塩を表層へと持ち上げる。新たな栄養塩の供給は、晩夏~初秋の十分に強い陽射しの下でプランクトンの増殖を促し、結果、マガキの餌を増加に結びつく。

最近3年のうちで2019年夏の養殖場の海水温は低めに経過した。一方台風はといえば、お盆過ぎに豊後水道を駆け抜けた10号が目立った程度で、先の2年に比べて影響は軽微であった。そうしてみれば、表面的な印象ながらマガキの収量には水温より台風がもたらした餌料増大が重要因子となっている可能性が高い。仮にそうなら、「毒を薬として使う」のと同じような際どいマネージメント(この場合は運頼みか)が不可欠である。

細かな実験的試行を行えないのが農水産業の宿命とはいえ、弛まぬ創意工夫と挑戦によって現在の形を創り上げてきたのも事実である。例えば、狭い養殖場の中で収量の高低が認められる実態に即し、生育状況に応じて養殖密度を変える等の工夫等々、この養殖場にもやれることはありそうだ。