鳥の巣釣り場通信(2023-08)
=海は時に難しい==

皆さんこんにちは。平素は鳥の巣釣り場をご利用いただき有難うございます。

潮の干満差が大きくなるこの季節、大潮で天気に恵まれると磯遊びに嵩じる人影があちこちの泥岩山脈上に見られます。磯への立ち入りに厳しい制限を設けている漁協もあるようですが、これまでのところ我が方は「節度をもって愉しむのは差し支えない」との鷹揚な態度です。

海水は乱高下の傾向が認められるものの、基本的には20℃手前まで温んできています。海の色はグリーン系で透明度は釣り場としては中位です。降雨後の晴天時には植物プランクトンが増殖し微かに着色現象が認められます。これと紛らわしいのはインクを流したような赤変水塊で、大潮干潮後の波打ち際に延びることがあります。これは強い陽射しによって海藻から溶出した色素に因るもので、この季節ならではの現象です。

4月のチヌ類はほぼ1匹(1人当たり)でした。4月に入って中・小型サイズが減った一方、40㎝超えの良型が増え、50㎝超えも混じっていました(これまでの最大はBさんの54㎝弱)。現在、そうした大型魚はほぼ姿を消し、狙いの主体は40㎝台に遷ってきたように見受けられます。

アジ類は低水準が続いている中にあって、先月末から期待を抱かせる兆候が認められます。アジを狙っていたYさんを始め、再登板のベテラン・アジハンターTさんもしばしば好漁に恵まれました。但し幸運と粘りが必要なことは言うまでもありませんが。

アイゴに関して「良型数匹の群れが筏周りでみられる」との目撃情報を発信したところ、Nプロも道具のテストを兼ねて登場。初日に手ごたえを感じつつ後日の大爆。超ベテランにとってもキャリアの中で最も早い竿入れに加えて、予想外の好漁を経験しているようです。早くも本格的にシーズン・インです。かくの如く海の中の季節も陸上に準拠するかのように巡りが早く、人間には感知できないちょっとした変化が起こっているようです。

 

珍しい訪問者”イシダイ”(K♀さんの獲物)

今年は駿河湾の宝石と称えられる「“サクラエビ(Lucensosergia lucens)”が数十年振りの豊漁で駿河湾奥の港は大いに活気づいている」と伝えられています(因みに富山湾の宝石といえばシラエビ(Pashiphaea japonica)のことです)。
サクラエビは駿河湾と台湾の南東部でのみ漁獲利用されている5㎝程度のプランクトン性のエビで、、その寿命はほぼ一年です。このエビの近い親戚は殆ど全て深海性で、我がサクラエビの他には漁業として成り立っている事例はありません。つまり極めて珍しい漁業なのです。

釣りをする方々は「オキアミ(= “ナンキョクオキアミ”)がたくさん獲られているではないか?」と云われるかしれません。けれどもオキアミはエビとは少し離れた縁戚で、さらに“アミエビ”として販売されているものも実はオキアミの仲間“ツノナシオキアミ”です。これを狙った漁をイサザ漁といい、東北沿岸に春を告げる風物詩になっています。因みに今春のイサザ漁は“漁獲量はまあまあ”なのに対して“値が付かない”、というもどかしい状況のようです。脱線ついでに言えば、”アキアミ”が日本各地で漁獲されています。これはアミというものの真正のエビんでしかもサクラエビに極めて近い仲間です。カキ揚げにしたら結構美味でした(しかも値段が安い)。

駿河湾のサクラエビ漁は早くから漁業者自らが厳しい操業規制を敷いて資源の有効利用に努めてきました。特筆すべきは、漁業者個々の漁獲量に拘わらず全体の売り上げをプールして漁業者に均等に配分するユニークな経営形態を採用していることです。

こうした漁業者の努力にも拘わらず近年は漁獲量の落ち込みが著しく、関係者に危機感が拡がっていました。惜しくも昨年物故された大森 信先生は世界的に名を知られたサクラエビの研究者で、サクラエビ資源の著しい減少を大いに憂いていた一人でした。先生は漁獲量低迷の有力な要因として強い漁獲圧力を挙げ、「資源の回復にはさらなる漁獲制限を打ち出すべきである」というご意見をお持ちだったようです。
しかし永い歴史を有するサクラエビ漁は漁業者の資源管理意識の高さと相俟って比較的うまくコントロールされてきたと考えられます。少なくとも最近年の低迷が始まるまではある程度納得できる漁獲を維持していたと推察されます。従って近年の漁獲の低迷や今年の豊漁は漁獲の強度による変動というよりは、稚エビの生残に係わる海洋環境の好・不適に負うところが大きいと推察される。

遠く三陸のワカメ養殖もことしは極めて厳しい状況とニュースが伝えていました。ワカメ養殖は潮の流れなど海洋環境を読む力が生産量や品質に大きく係わるらしい。そうした目利きの生産者にとっても、であります。同時にこの事実「海洋環境の僅かな変化がワカメの好・不漁に敏感に影響する」ということを示しています。

海は余計な手を加えなくても恵みをもたらしてくれる有難い存在である。いみじくもTさんが漏らした「海は良いなあ~」に全面的に賛同である。が、海に親しむ方々がすべからく経験するように我々が機嫌を読み切れない難しさも抱えてもいる。