=寒気が招いた養魚カタストロフィー=

 

皆さんこんにちは。平素は鳥の巣釣り場をご利用いただき有難うございます。

夜明けが遅くなっています。まだ暗い事務所に到着して空を見上げたら一筋の線。「ずいぶんきれいな飛行機雲だな、おっ2筋あるぞ!」と眺めていたら、「なんと、電線ではないか」。目の調節機能が低下したトホホな状況です。

釣り場(=養殖場)で行われているマガキ引き揚げ作業は北側(向かって左側)を終え、南側半ばに移っています。今年は荒天が多く作業の中断が多くなっており、すべての作業が終了するまでまだ10日間程は掛る見通しです。

釣り場の水温はコンスタントに20℃を下回ってきました。直近は17℃前後で変動しております。昨年同期と比べると幾らか低め傾向を示しています。湾内水は青みが入り、透明度は中から高めとまっています。

11月のチヌ類は2匹弱(1人当たり)でした。例によってチヌハンターに限ればこの数字はずっと上がります。魚体は20~30㎝台前半の小型サイズが主体となっているものの、これまで同様ごくごく稀に40㎝超えが姿を見せました。例年ならほぼこの調子がもうしばらく続くのではないかと推察されます。サイドメニューはお馴染みのオオモンハタの幼魚、チャリコやアイゴに木っ端グレ、カワハギ類となっています。

アジ類は小アジ類が主体に少々~そこそこの数(うち1~2割ぐらいが大きめのサイズ)が沖合側の釣り台で揚がっております。が、その勢いは一時期に比べてやや落ちた模様。さらに狙いのものは回遊群らしく、喰いの止まる時間帯がわりと眺めです。その一方で青アジは本命釣りの邪魔になるほどとのこと。大物を狙っているハンター達は取りこぼしが多いように見受けられます。

アイゴは専門家たちから打ち切り宣言が発出され、シーズンが終了です。但し、時折腹を減らせた地付きの個体が喰いついてくるため、今しばらく魚体を目にする機会はありそうです。何方様も道具の手入れ等で来シーズンに備えて下さい。

 

釣り人で賑わう鳥の巣半島地先の岩場(釣り針等の片付けも宜しく)

 

釣り場(=養殖場)では春からスマ(=ヤイトガツオ)の養殖試験を試みていました。昨年は秋期の寒波の南下に伴って大量へい死が発生しました(記憶の限りで)。

気分を一新して再チャレンジを掛けた今年の養殖試験でしたが、まことに残念なことに先日、水温が16℃台まで下がった後に魚の活力が低下し、二年続きの大漁へい死に見舞われてしまいました。試食会の講評も宜しく出荷に向けて販売交渉が進んでいたというから、飼育に携わっていた(あるいは購入を希望されていた)関係者にとっては痛恨事でありましよう。

 スマは北西太平洋の温・熱帯の暖かい海を回遊する魚です。外洋を泳ぎ回る魚種にしては比較的沿岸域に寄り付くと云われております(ネット情報)。とは云え、外洋性回遊魚を田辺湾奥で養殖するのはかなりハードルが高いミッション、というのが一般的な受け止めだろうと想います。飼育作業に直接携わっていたわけではありませんが、傍で観ていてスマについての学びもありました:

 ・成長がかなり早い魚である。

 ・想像したよりずっと湾奥の急激な温度の変化に強い。

 ・降雨に伴う淡水並びに泥水の流入などの水質環境変動への耐性がある。

  但し、こうした生理特性は高めの水温で発揮されている模様で、22~23℃より水温が下がると魚の活力が落ち、そこに降雨による淡水流入などの水質の変化が加わると魚側の体力が追い付かなくなるように見受けられます。さらに水温が20℃より下がると生理活性が一層低下している印象です。この数値は人づてに聞いたスマの生存を脅かす下限水温値18℃より幾分高いが、内湾の厳しい環境ゆえにかさ上げ部分と捉えられるのかも知れません。

 そして先の下限水温は奇しくもベテランのアイゴハンターNさんが“釣りシーズン終了の判断目安とする経験値”に重なるのは興味深い点です。さらには、「高齢者の生活温度は22℃以上を保ちなさい」という医療関係者のアドバイスと関係するのかしないのか・・(大方の見解は単なる偶然でしようが)。

  件の養殖プロジェクトを成功させるためにこれから先に必要と考えられるのは、1)出荷時期を10月下旬までに設定できるかどうかで、そのためには2)バイヤーを含めた消費者マインドの変更を促す努力、或いは3)成長の促進を図る(例えば高成長系統の作出)といったところが要点になるでしようか。何れもハードルは高いので、的外れでないとしてもそれなりに努力は必要です。

 死んだスマの片づけに伴って魚を収納した袋が作業台に積みあがりました。なんの脈絡も無くふと、 “漁村はイワシの大漁に湧いている。その一方で数多くの魚の命が失われた”、ことに想いを馳せた金子みすずの詩が頭を過ぎりました。

行き掛りついでに記すと、この近隣ではかつて貝類養殖が盛んにおこなわれていました。そこでは収穫の前にお神酒を献じ、感謝と断わりの詔を奉じてから作業に入ったそうです。類例は材木の伐採や稲刈に際しても普通に行われていたようである。今や当養殖場のマガキ引き揚げ作業に際し、そのような儀式は執り行われていない。昔の人の命への向き合い方は今とは少し違ったようである。

年の瀬が迫って慌ただしくなっています。何方様もご自愛ください。