=カタクチイワシ漁を遠望して=

   みなさんこんにちは。平素は鳥の巣釣り場をご利用いただき有難うございます。 

 釣り場は11月中旬から始まったマガキの収穫作業で関連業務に因る慌ただしさくなっており、もうしばらく続きそうです。水温は11月半ばより20℃を下回り、直近は17℃前後で推移しています。今冬15℃以下に下がった日はこれまで皆無でした。

 チヌ類は20~30cmサイズが好調で、月間平均は3.6尾(一人当たり)と今年一番の記録となりました。小型サイズが主体の中にあって馴染みのOさんが釣り上げたのはこの時期としては珍しい48㎝の良型。このサイズの大物はOさんにとっても(記録と記憶の限り)久方ぶりの快挙、しかもアジ狙いのサビキで・・・。恐らく御本人も意図しない“行き掛り的成果”。しかし、これはもう釣り揚げた者の勝ちです。小型のヘダイは引き続き堅調の一方、アジは30cm前後と大型化しているものの片手前後の釣果で、チャリコ(=マダイ幼魚)、バリコ(=アイゴ幼魚)も同様、釣れるけどポツポツといった状況でしようか。

 Oさんの釣り師魂を蘇らせた(?)快心の一尾(チヌ48㎝)

 田辺湾内で操業する二艘船曳によるシラス(主にカタクチイワシ稚魚狙い)漁船団の無線による遣り取りがほぼ季節を問わず釣り場に届きます。「知ってるよ!」と言われるお客さんも多いはずです。カタクチイワシは最大体長が20㎝弱の小さな魚ですが、我が国の沿岸漁業の最重要種の一つです。日本人に身近な存在であることの片鱗は成長に伴ってシラス、小羽、中羽・大羽などと呼び慣わすことからも窺えます。モンゴル人が馬を性別・成長に応じて細かく識別しているように、生活に密着した事物を細かく識別する現象は人間社会に広く共通する現象です。

 田辺湾奥で操業するカタクチイワシ船団(筏群の先)

 スーパーマーケットの陳列棚を丹念に覗けば、カタクチイワシが稚魚から成魚まで殆どすべての生活史段階で釜茹や乾燥食品として販売されていることに気付きます。また、瀬戸内海地方では刺身で食しますが、これはなかなかイケますよ。 

 その昔、ウクライナ出身の高名な海洋生物研究者がカタクチシラス漁を見学し、「成魚だけでなく稚魚まで漁獲しているのか!?」と、驚いていたと彼の案内担当者から聞かされました。しかし、稚魚の生残率は極めて低いので節度を持って漁獲すれば資源量へのダメージを最小限に抑えられるはずです。幸い、カタクチイワシは絶滅危惧に陥ることなく現在に至っています。

 身近な魚であるにも拘わらず生態に不明な点が多かったカタクチイワシを直接観察して調べようと飼育研究に先鞭を付けたのが瀬戸内海の水産研究所で仕事をしていた高尾亀次さんです。今から40数年前のことで、”魚”偏に”弱“と書かれるような傷つきやすいカタクチイワシを水槽で飼育できるなど、当時は誰も信じていませんでした。この果敢な挑戦は見事に成功し、その後、本種の生理・生態特性の解明に大きく貢献しました。昨今、水族館の水槽で展示されるイワシ類の群泳・乱舞の様は見事なスペクタクルです。この感動も高尾さんの先駆的研究があったればこそのはず。彼の名前は幾つかの研究報告の中にさり気なく残されています。しかしながら、実際の功績はもっと高い評価に値すると感じています。