=紀南の磯 春の幸点描=

  みなさんこんにちは。平素は鳥の巣釣り場をご利用いただき有難うございます。

  紀南路の桃がピンクの花を開かせ始め、鳥の巣半島の水田は頃合いよしと田植えに向けた土起こしが終わりました。でも里山を彩るはずの山桜がパッとしません。旧い住人は、「昨年の台風の影響ではなかろうか?」と見立てておりました。そう言われれば梅や蜜柑の木に塩害の影響が認められます。

 釣り場の水温は15℃前後で変動しておりますが、ここ数日やや下振れ状態が続いています。チヌ類の釣果は漸増傾向にあって既に昨年同期を大きく超える尾数が揚がっており、シーズン冒頭の出足としては良さそうです。目下、この方面でBさんが好調を維持している中、名人Yさんが追撃態勢を整えつつある模様。引き続きBさんが一人旅を維持できるかどうか、今後の展開に興味が持たれます。 

 比較的好調なチヌに対し、冬の釣り場を活気づけたアジが風前の灯火状態で正に栄枯盛衰の観があります。「もうシーズンも終わりかな・・??」と、アジ・ハンターTさんがぽつりと漏らされました。う~ん、アジにTさん、共に頑張って貰いたい!! 

 桜鯛もポツポツと姿を見せています、念のため。

 

 Bさんのある日の釣果:師匠も感無量では??

 春浅い大潮時の田辺湾では露わになった泥岩山脈上にうごめく人影があちこちで見られます。麗らかな好天に誘われた地元でいう“イソモン”採りに講じる人々です。“イソモン”とは”クボガイ“や”イボニシ”など潮間帯に生息する巻貝を指してこう呼びます。これらの貝類は古くから地元の食卓にのぼった産物ですが、一般に流通するほどの産量が無く、また際立って高値が付くものでもないため極まれに地元のスーパーに並ぶ程度です。好事家にとっては貴重なのかも・・知れません。

 地域特産の磯の産物を採る習俗は日本の各地域で見られ、海藻類も含めて磯場の恵みを”イソモン“と総称する地方もあるようです(例えば”船と港のある風景“ 農文協出版)。私が知るところ、田辺地方では海藻類は標準的な和名(例えば”ヒジキ刈り“など)で呼び慣わすので、”イソモン“は小型の巻貝類のみを指しているようです。してみれば、田辺周辺の先人は磯の海藻には拘りがあったのに対して貝類への関心が薄かったのでしよう。恐らくは経済性、有体に言えば「銭になったかどうか」が決定的だったはずです。巻貝の仲間と言っても、”アワビ”や”ナガレコ”などは固有名詞で呼ばれますからね。

 “イソモン“は塩茹でにして小さな貝殻から縫い針などを使って根気よく身を取り出(採捕直後の砂出しを忘れないよう!)、そのまま若しくは酢味噌和え等のサイドメニューとして戴きます。内臓の独特の苦みが癖になる味です。 

 潮間帯の味覚として珍しいところでは”カメノテ“が挙げられましよう。子供の頃、磯行が大好がカメの足(?手)にそっくりなこの生き物、実態はフジツボの仲間です。もしかしてフジツボを貝の仲間と誤解されている方はおられませんか? ところがどっこい、彼らは外見に似合わずエビやカニの遠縁なのです。岩場に付着した成体に比べてその幼生はずっとエビ・カニの子供にそっくりな風貌を留めています。子供同士を比べれば一目瞭然なのですが、その身元が判明したのはわりと近代の出来事です。現在なら遺伝子検査で速断ですね。

 以前にも記したように、素性が判然としない生き物を匂いや味で特定できることがあります。そして”カメノテ”も貝よりはエビ・カニなどの甲殻類に近い風味です。身体を構成するアミノ酸がにているのでしよう。一部には貝も甲殻類も殻をもつ“介類”として同一に扱われるというご意見もありましよう。それも伝統的な認識体系の一つであながち間違っているとも否定できないのですが、近代の分類体系はそれとは少し違った認識を採用しているとのです。

 年配者はわりと地産の海の幸に強い愛着を持っています。一方、それを口にした経験がない若い世代も大勢いるはずです。話のタネに磯で採って食してみようという好奇心旺盛な人が現れるかもしれませんね。そこはそれ、“磯ね資源”として保護対象になっているものが多いので、この点はご注意ください。