=田辺湾の養殖イワガキの繁殖周期=

 

みなさんこんにちは。平素は鳥の巣釣り場をご利用いただき有難うございます。

田辺湾の奥、枝湾のあちこちで塩生植物“ハマボウ”が黄色い大振りの花を着けています。水田へと眼をやれば4月下旬に田植えを終えた稲の実入りが進んでいます。一年の半分が過ぎ季節の移り替わりの速さが実感されます。

  早い梅雨明けに伴う強い日射を受けて30℃に迫った水温は先の台風に伴う雨で3~4℃ほど急下降し、その後再び乱高下を繰り返しつつ直近は27~28℃前後で推移しています。海にはやや高めの透明度が戻ってきています。但し、降雨後の強い日差しのもと、茶緑のスープ様水塊が局所的にみとめられます。増殖した植物プランクトンが風や流れで集積した結果、弱い赤潮状態になったと推察されます。

7月前半のチヌ類は1.7匹(1人当たり)となりました。もちろん個人、日毎の波があり、またこんなはずではとの感想を持たれる方もおられるはず。しかし釣り場全体としては比較的好調に推移しているとみなしています。小型サイズが圧倒的に優勢になっていますが、40㎝前後が頻繁にみられ、さらに50㎝超えの大型魚も稀に貌を見せました。サイドメニューとしては引き続きグレ、チャリコ、サンバソウ、ハタ類の幼魚などです。

アジ類は一時的に重要情報源を喪失したため正確な釣果は把握できていません。しかし様々な断片情報から引き続き低位水準に留まっていると推察します。サイドメニューはシオなど。

アイゴは小型のサイズ主体に堅調に推移しています。名人クラスはもちろん、上位を狙う位置におられる方々もまあまあ愉しめる状況と判断しています。

 

 滅菌処理中のイワガキ

当釣り・養殖場ではイワガキの現地・予約販売を行っています。田辺湾奥では凡そ三年間育てて販売サイズとしています。イワガキは夏が旬といわれますが、専門家に言わせると晩春から初夏に味がのるとのことです。イワガキは水温が26℃を超えると産卵が始まるのでその直前が身が肥えて食べ頃というわけです。産卵の開始時期について前述の目安は現場感覚とも一致します。

冬が本番のマガキと違ってイワガキの産卵は1個体が数回にわたって行なわれるため産卵が確認されたからと云って直ちに身痩せすることはありません。但し、逐次産卵とは云ってもその分だけ生殖巣は縮退し身は徐々に痩せていくことに間違いはありません。

新庄漁協ではイワガキの販売期間等について基礎資料を得る目的で、元養殖担当理事のOさんが主導し、県の水産振興課の協力で平成27~28年にイワガキの生殖腺の発達や身入り状況の季節変化を調べました。限られた材料による予察的調査であり、解釈の難しいデータもありますが、大まかな傾向は掴めています。

それに拠ると、当養殖場のイワガキの生殖巣は9月中頃を境に急激に縮退します。注意が必要なのは、すべてのイワガキ個体の産卵が、オーケストラが指揮者のタクトに合わせて一斉に音を奏でる如く同調している訳でなく、個体ごとに遅延があり、8月ともなれば早いものは既に生殖巣が空である反面、遅いグループは未だ残量があるという状況です。このグループ別の細かい割合は残念ながら把握できていません。また毎年厳密に定まっているわけでなく、海の環境条件によって変わり得るはずです。

そうした諸々を含め、当養殖場のイワガキは8月末頃までにほぼ産卵を終了すると推察されます。生殖巣が痩せた状態は年末まで続き、翌年1月以降徐々に回復の兆しが現れ、5月頃から再び本格的な発達段階に入る、といった周期性があるようです。

水温の低い日本海側などでは生殖巣の成長がゆっくり進み、また産卵も後ろにずれるため長い期間その味を愉しめるのに対し、水温の高いこの地では短期勝負とならざるを得ないようです。昔はこの辺りの実態が把握できていなかったのです。

かつて我がイワガキが秋に催された食材の産地試食会に臨んだことがあった、と記憶します(間違いなければ)。バイヤーたちの評価は「イワガキはやはり日本海産に軍配があがる」だったとか。が、前述の如く産卵後の養生期にあたるため当のイワガキとしては実に不本意なデビユー戦だったことになります。 “臥薪嘗胆“、次の機会に期待しよう!!